経済学全般の入門的な教科書としては次にあげるクルーグマンかスティグリッツの教科書がいいでしょう。 スティグリッツはやや癖がありますが,クルーグマンはかなり素直な教科書です。
入門用として,先にあげたクルーグマンの教科書およびヴァリアンの『入門ミクロ経済学』が入門書として いいと思います。奥野,神取,矢野,山崎も良い教科書です。Varianの"Micoroeconomic Anaysis"はかつて学部 上級から大学院の入門コースでの定番の教科書で,ある程度以上の経済分 析を目指す人は読むべきで しょう(その前に基本的な数学---微分,制約付最大化・最小化問題の解き方,線型代数---を学んだ方が効 率的ですが)。
現在の学部教科書の定番はマンキューの教科書。 マクロ経済学は異なる学派が並存していたり,学部レベルと大学院レベルの教科書のギャップがかな りあります。麻生はそれを意識して書いた入門書です。なお,大学院レベルの教科書としては,未だ にBlanchard and Fischerの本がいいと思いますが,やはりちょっと古いです。最近ではDSGEモデル (Dynamic Stochastic General Equilibrium model)を解説した教科書もでていますが,それはある 程度の基礎を終えてから読んだ方がいいでしょう。
統計学をきちんとマスターするにはそれなりの数学が必要ですが,とりあえず使えるためには,実際に統計的手法を使いな がら覚えていくのがいいでしょう。Excelでもかなりのことができます(「分析ツール」というアドインを組み込んでおく必要があります)。Excelの 組み込み関数には統計関連の関数もかなりあるので,これらを使いながら,統計学を学ぶと効果的だと思います。
昔使った本の中では,P.G.ホーエルの『入門数理統計学』(培風館)と佐和隆光の『数量経済分析の基礎』(筑摩書房),S.チャタジー,B.プライス 『回帰分析の実際』(新曜社)が良かったと記憶しています。
学部生の入門向け教科書では田中(2015)がいいです。その上の学部生から大学院初級クラスの計量経済学の教科書としてはWooldridgeとStock and Watsonが優れています。
ある程度以上の統計的な分析を行おうとすると,Excelでは力不足で,専用の統計パッケージが必要になります。 最近,人気を集めているのがRというフリーの統計ソフトです。これにRStudioというソフト(統合開発環境)を使う と非常に使い勝手がよくなります。
R関連の文献とWEBページは以下を参照のこと。
公共経済学,財政学の基本的なテキストには次のようなものがあります。
大学院生向けのテキストとしは,次のものがあります
政府の役割に関しては,フリードマンの議論は今でも非常に刺激的です。『資本主義と自由』は2008年に新訳が出ました。 また,『市場対国家』(原題はThe Commanding Heights)は戦後の政治思想や経済政策に対する考え方の実際の変遷が(小さな政府の立場からですが)感動的に記述されています。読み物としてもおも しろい。
まずは,公共経済学または財政学の教科書をきっちり読むこと。
財政赤字の問題についてはマクロ経済学の教科書をきちんと読むこと。 麻生『マクロ経済学入門』の財政赤字の章は,この問題を考えるための基礎理論が解説されています。 マンキューのマクロ経済学の教科書も同時に読むこと。 日本の現状については財務省のHP日 本の財政を考えるを 参照のこと。 世代会計については,コトリコフ(1993),島澤・山下(2009),島澤(2013)を参照のこと。
現状の制度や問題点を論じる前に,保険の機能や役割について理解する必要があります。制度の解説や歴史的経緯に重点をおく書物の多く は,こうした点についての説明が不十分です。また,「医療経済学」を専門とする学者の中には,医療の特殊性を強調するだけの人が多いで す。「専門家」の結論を受け売りするのではなく,医療サービスが通常の財とどのような意味で異なるか,市場メカニズムだけで不十分なの はどのような場合か,を考えるのがまず筋でしょう(そういう風に考える習慣をつけることが重要)。
個々の人間にとっては,事故が起きるかどうか事前にはわからないが,同じようなリスクに直面している人を十分に多く集めると,その集団全体としての事故の 発生数はほぼ確定します(統計学における大数の法則や中心極限定理でこの意味が明らかになる)。これが保険の原理です。なお,保険が存在することで,どの くらい期待効用のゲインがあるかは,人々の危険回避度やそもそものリスクの大きさに依存します。これに関しては,麻生『ミクロ経済学入門』(ミネ ルヴァ書房)の第14章「不確実性」に書いておきました。
しかし,医療保険の場合,保険加入者と保険会社の間に加入者の健康状況に関する情報の非対称性が存在すると, 逆選択が発生して保険市場はうまく機能しないかもしれません。その場合,政府が乗り出して,保険に強制的に加入 させると事態は改善します。これが公的医療保険の存在根拠です(麻生『ミクロ経済学入門』の第15章「市 場の失敗」および麻生・小黒・鈴木『財政学15講』 (新世社)の第14講「公的年金と医療」を参照のこと)。
ただし,情報の非対称性よりも保険加入者自身のリスクに対する態度が多様であれば,保険市場は,加入者の選好(リスクに対する態度)の強さに応じて保険を供 給するという機能も果たします。近年,この機能(advantageous selectionとよばれる)に注目が集まっています。advantageous selectionがadverse selectionよりも優勢ならば,強制加入の公的保険は非効率的になる可能性もあります。この問題については以下の論文を参照のこと。
Lilian Einav and Amy Finkelstein, "Selection in Insurance Markets: Theory and Empirics in Pictures" ,Journal of Economic Perspectives, vol.25, No.1, Winter 2011
さて,adverse selectionが優勢である場合,強制加入の医療保険制度をつくれば,それで問題が解決かというとそう簡単では ありません。一般に保険が存在すると,事故防止の注意を払わなくなったり,医療保険の場合では,大した病気で なくても病院に行って治療を受けようとします。これをモラル・ハザードといいます(これは保険会社が保険 加入者の行動を完全にはモニターできないことから発生する)。このモラル・ハザードを防ぐためには,事故 や病気の際に一部自己負担を求めたり,過去の保険給付の受 取の履歴をもとに本人の保険料負担を変化させることが必要になります。医療費の自己負担割合をどうするかがしばしば政治的な論争を引き起こしますが,保険 原理とモラル・ハザードの問題にどう折り合いをつけるかという点で考えればいいのです(日本の政策論議では,単に保険財政の問題としてしか理解されていま せん)。
医療保険の場合,モラル・ハザードは病院側にも発生します。患者が医療行為の真の負担に直面しないため,病院側は過剰な診療・過剰な投 薬を行ったり,高価な治療法を選択するかもしれません。これを「医師誘発需要」と言います。医療サービスは,その内容の適切さを判断するのに高度の専門知 識が必要であり,そのため,患者側(需要側)は医師側(供給側)に比べて情報上の劣位にあります。この点において,医療サービスは通常の財・サービスと異 なると考えられます(他にもいろいろありますが)。
医療保険制度を考えるにあたってもう一つ重要なことは,保険を個人の生涯の観点から考えなければいけないとい うことでしょう。若い人と高齢者を比べれば,高齢者の方が病気のリスクが高いのは当然です(病気やケガの完全な治癒が困難な場合は多くあるし,加齢に伴う肉体的な衰えもあ る)。保険を単年度で 考えると,高齢者の保険料は非常に高くなってしまいます。しかし,生涯の出発点で考えれば,同一世代はほぼ 同一の病気のリスクにさらされていて,加齢とともに病気のリスクが高まるだけでしょう(本当は生まれた時点 で個々人の遺伝的特質によって病気のリスクがある程度わかってしまうのかもしれませんが)。生涯で保険料 負担と給付が一致するような制度にしておけば,高齢期の保険料負担の急増は避けられます。
なお,医療サービスとはまた別に,医薬品の問題が別にあります。医品品の製造費用のかなりの部分を占めるのが研究開発投資で,いったん新しい知識が獲得さ れた後では,医薬品自体の製造コストは非常に小さいという性質があります。これは,一般に情報の生産(学術知識の生産,ソフトウェアの生産,音楽の生産な ど)に共通してみられる性質です。情報,あるいは知識は公共財的な性格を持ちます。これは事後的に(いったん知識が獲得された後では)タダで供給すること が効率的資源配分につながることを意味しますが,一方で,知識生産のためのインセンティヴをなくさないためには,その知識の生産者に報酬を与える必要があ ります。
インセンティヴの確保のための通常の方法は,知識の生産者に一定期間独占権を持たせることですが,このインセンティブ確保と独占を認めることによる資源配 分上の損失をどう折り合いをつけるかという問題に帰着します。これは,かなり重大な問題を秘めていて,なぜ数学や物理学の発見者に特許権を認めないのか, あるいは認めていいのはどのような分野か,そして認める場合には,どの程度の期間が望ましいのか,という問題に議論が発展します。この話は矢野誠『ミクロ
年金制度については,年金保険としての機能(どのくらい長生きするか事前にわからない)と,現実の年金制度の引き起こす世代間移転の効果が理論的には重要 です。
年金・医療についての基礎理論は麻生・小黒・鈴木『財政学15講』(新世社)の第14講「公的年金と医療」および小塩隆士『社会保障の経済学』が比較的よい でし ょう。
なお,現実の年金制度改革をどう考えるかについては,経済学者もかなり世間的な常識に引きづられた議論を行ってます。税方式化,特に年金保険料 の消費税化などの議論です。資本蓄積や労働供給への阻害効果を考慮すると,積立方式への移行とか,個人勘定化が望ましい改革の方向性だと私は考 えますが,それについては以下の私の論文を参照してください。
最適課税論については,大学院レベルの教科書(Atkinosn and StiglitzのLectures on Public Economics),Salanieがいいです。 税制改革を考える上で必読文献なのは,Mirrlees Review(上記の文献)で,IFS のWEBサイト からPDF版を無料入手できます。より専門的な論文は Dimensions of Tax Design に納められて います。こちらもPDF版を無料で入手できます。
入門書としては,ヒルマンがいいでしょう。Persson and Tabeliniは この分野での必読文献(大学院レベル)。 また,Olsonの「集合行為論」は,民主主義的意思決定システムのもとで(小規模の)特殊利益団体 の利益が優先されるメカニズムを解き明かしたもので,この分野では,Downsの議論とならんで古典 的な名著です。